初めての放課後デート









「かぁ〜らぁ〜すぅ〜、なぜなくのぉ〜、からすのかってでしょぉ〜」

調子のはずれた歌を嬉しそうに歌いながら歩くのが僕の彼女。全くどうしてこんな馬鹿っぽい女を好きになったのかわからない。
朝は遅刻するし、真面目に授業を聞いても赤点とるし、スポーツ万能かと思えば階段の上から下まで滑り落ちるし、お弁当を食べればぽろぽろこぼすし、それに群れるのが大好きらしい。
見れば見るほどわからないし、最初はイライラさせられていたはずなのに。
いつの間にか目が離せなくなった。
「ね、ね、きょーや」
半歩先を言っていた彼女が突然くるりと振り向いた。何、と一言返すと嬉しそうにふふふ、と笑う。
「きょーやって寄り道したことある?」
「あるわけないだろ」
帰り道は群れる草食動物を咬み殺す時間だったんだからね。そんな貴重な時間を君と過ごすためだけに草壁に見回りを命令して帰っているんだ。少しは気づいてよ。
「やっぱりー。ちょっとは寄り道しなきゃだめだよ。健全な中学生じゃないなー」
「君の健全な中学生の規定がわからないよ」
「んー、たとえば」
そう言って君は白線の上から降りて、僕の隣に立った。そして、僕の左手に君の右手を絡ませる。
「こうやって大好きな人と手を繋いで一緒に帰るのが健全な中学生」
照れる素振りなんて全く見せず、寧ろ嬉しそうに笑ってこーやって帰ろうという君。本当に意味がわからないよ。僕がこんなにもどきどきしてるっていうのになんで君はそんなに平気なんだ。
僕は黙ってその手を解いた。途端に、君の顔は曇る。
「ご、ごめんね。嫌だった?」
おろおろとフォローをはじめる君の右手をとって、僕の左手に絡ませる。
「右側通行だろ」
君が道路側を歩いたら何が起こるかわからないじゃないか。君に何かあったら僕はそいつを咬み殺すぐらいじゃ済ませないから。
君は驚いた顔で僕を見ている。それから、少し頬を染めてまたふふふ、と笑った。
「何」
「嬉しいな。きょーやから何かしてくれたことってないんだもん」
幸せってこんなかんじのことを言うんだだねって言って君はまた照れ笑いをした。



羽化する日
(君への気持ちが、日に日に大きくなるんだ)



2008.03.15