今日、ジャスデビと喧嘩した。
髪の毛ひっぱってきたり、勝手に変なメイクしてきたり。あたしがほんとに嫌がってるのにあいつらけたけた笑わってもっと追いかけてくるなんて信じられない!
ほんとにムカついたからばかぁって叫んで部屋に逃げてきてやった。もちろん入るときに鍵をしっかりと、10個くらいつけて。
これならさすがのばか双子も絶対入ってこられないハズ。

「ノアってみんな意地悪だ・・・」

シーツの中にくるまって枕をぼすぼす殴りながらばかばかって八つ当たりしていた。
スキンさんもなんか怖いし、ロードちゃんもティキから聞かされてた話よりなんか意地悪だし、ティキもそれ見て笑ってるだけだし・・・。

「・・・あたし、みんなから嫌われてるかも」

思わず出てしまった本音にぱっと口を押さえる。
つい、出ちゃったとは言え、あたしってばなんてこと言っちゃったんだろ・・・。
でも言葉にするとほんとにそんな気がしてきた。
よく考えれば、あたしはノア新入り。ノア化する前までだって白ティキの恋人だったわけだから一家団欒の時間を奪って、急にノアになったんで仲良くしてくださいなんて都合良過ぎるもんね。
普通に考えて嫌だよね。いじめてやれって思われてもおかしくないもんね。
寧ろ追い出されないだけマシなのかも。でもいつかはきっと追い出されちゃうよね。

「やっぱり出て行こうかな・・・」
「それは困るな」

突然ティキの声が聞こえてきて、びっくりしてシーツから顔を出すと黒のティキがいた。ラフな服装だから多分お仕事じゃなかったんだと思う。ドアにはしっかりと鍵もついてるのに、なんで?

「そんなびっくりすんなよ。俺の能力忘れた?」

少し意地悪そうな顔。今の顔、ロードちゃんに似てる。
ティキに言われてあたしは今更ながらに彼のとーっても便利な能力を思い出した。よく考えたらみんな特殊能力持ってるんだからあんな一般人が使うような鍵を10個つけようが100個つけようが無意味だよね。

「今、思い出しマシタ・・・」
「それはよかった」

にこにこ笑いながらベッドまで歩いてきて、端に座った。みんなに嫌われてる疑惑が頭によぎってティキが座った側とは反対の端までそろそろと移動する。シーツから上半身だけ体を出して足を折り曲げて小さくなって座った。膝の上に枕を置いて顎を乗っけて、はふーと一息。

「何で逃げるの?」
「ベツニ・・・」
「別にで逃げられたら俺傷ついちゃうよ」
「だってティキあたしのこと嫌いだもん」
「はぁ?」

何お前馬鹿なこと言ってんだ?って言うけどあたしは知ってんのよ。ティキがいじめられてるあたしを助けないのはもう嫌いだからなのよ。

「だってみんなあたしをいじめるんだもん」

みんなに嫌われてるんだもん。
膝の上の枕に顔をぐりぐり押し付けて涙を堪える。泣いたら負けな気がする。
涙が止まるまでずーっとぐりぐりぐりぐり押し付けていたら、急に後頭部をがしぃっと押さえられた。多分ティキの手。
ティキの手はおっきいからあたしの頭なんて簡単に掴めちゃって、ぐりぐりを止められる。うわぁ、ヤバい。止まると涙がもっと出てきちゃいそう。
頭をがっしり掴んでいた手が離れたと思ったら、次はその手が私の頭を優しく撫でてくれた。

「双子もロードもスキンものこと嫌ってねぇよ」
「・・・うそだぁ」
「ほんとだって。俺ものこと愛してるし」

だったらなんでそんなひどい態度なのよって文句言おうとしたけど、ティキおいでって言われると飼い慣らされた猫みたいにあたしの体は自然とティキの方へ行ってしまう。枕を顔に押し付けたまま。
前は見えなかったけどティキの近くに来たら引っ張られて大好きな人の胸の中へ引き寄せられた。
ふわり、とティキの匂いに包まれた。この香りはまだあたしが一般人でティキも普通の人間だと信じてた頃にプレゼントしてあげた香水の香り。ティキに似合う香水を、と思って一生懸命探したのよね。それ以来ずっと同じ香りを使ってくれるティキが好き。

「枕なんで持ったままなの?」
「ブサイクだから」
は可愛いって」

だから外して?って疑問形でいいながら強制的に枕を奪ってくるあたりはサドだと思うの。一応抵抗はしてみたけど、男の力に敵う筈もなくあたしの唯一の防護壁は飛んでいってしまった。涙でぐしゃぐしゃの顔が風にさらされて、ほっぺたがすうっと冷える。

「泣いてんの?」
「泣いてない・・・」

鼻をぐすっとすすりながら可愛くない言い方をすると、ティキはあたしの手を優しく握って涙をぺろっと舐めてくれた。それから馬鹿だなぁって子供っぽく笑う。

が泣いてるの初めて見た」
「だって泣くの好きじゃないもん。すっごい悲しいときにしか泣かないの」
「あいつらに嫌われたかもって思ったのはの言うすっごい悲しい時ってことか?」
「だって・・・ジャスデビもロードちゃんも意地悪してくるし、スキンは話しかけても睨んでぼそっと一言いうだけだし、ティキはあたしがノア化してからいちゃいちゃしてくれなくなったし・・・」

家族になってから誰にも言わなかった悩みを一気に言った。あたしにとっては地球が回らなくなるより重要な悩みだったのにティキはそれを聞いた途端けらけら笑い始めた。
まさか笑われるなんて思ってなかったからびっくりして、あまりにも笑い続けるものだからなんだか自分の悩みが恥ずかしくなってきた。

「笑わないでよ!」
「だって・・・くくっ・・・あはは!!!」
「っ、もういい!ティキのばか!」

ばかばかばか!そんなに笑わないでよ!
本気で悩んでたのに、ティキにとっては笑い飛ばしちゃうような問題だなんて。ほかの家族との問題は勝手にしろって思われても仕方ないかもしれないけどティキといちゃいちゃ出来なくなったのは私達の問題だから笑うことないじゃない!。

「あー、ごめんごめん。があまりにも可愛いこと言うからつい」
「ついって何よ」

ごめんなって言いながら顔中にキスの雨を降らせてくれるけどもうそんな手は通用しないんだから。
ぐいっと顔を引き離して、両手でティキの腹立たしいほど整った端整な顔を伸ばしてやる。痛い痛いと言いながらも笑うこの男がさらにむかついた。

「でも、がさ、あいつらと上手くやってけないって悩んでるのと同じで、あいつらも悩んでるんだよ」
「・・・?」
は家族が死んだとはいえ前は貴族だったんだろ?雰囲気がさ、高貴なんだよ。それに綺麗だし。双子とは同じくらいの年頃だし、ロードにとっては初めてのまともな姉貴だし、仲良くしたいみたいなんだ。でもどうもどう接していいのかわかんねぇみたいでついいじめちまうんだって。さっきも俺がみんながいた所に行ったら三人とも泣きそうな顔で俺に助けを求めてきたんだよ」

スキンは元からああいう性格だしな、って付け足されて。
ティキのほっぺたから両手を離してあたしは自分の行動に反省した。確かに三人ともちょっとファンキーな感じで、でもあたしはファンキーじゃないからどう接していいのかわかんなかった。伯爵もちょっと怖いし、ティキといちゃいちゃ出来ないのに三人はティキと仲良くて、家族って感じだから拗ねてたのかも。
仲間はずれにされたって勝手に勘違いして壁を作ってたのかな。
みんなは頑張って仲良くしようとしてくれたのにあたしばっかり逃げてたのかも。

「俺もと一緒の部屋で過ごしたり、一緒のベッドで寝たりしたいけど、まずは他のノアの奴らと仲良くなってからの方がいいかなと思ってたんだけど・・・言わなかったから不安にさせてたんだな。ごめんな」
「ティキ・・・」
「本当は独り占めしたいくらい愛してるんだけどな。でもがノアになれただけでも嬉しいし」

ただ冷めたんじゃなくてあたしのことを第一に考えてくれての行動だったんだ。一般人のままだったら許されない愛だったのに、あたしがノア化して家族公認になったんだからティキだって嬉しくないわけないのにね。

あたしは何も気づかなかったんだ。ノアのみんなの優しさに気づいてなかったあたしが一番ガキだ。

「ごめんなさい・・・」

ひっぱりすぎて腫れた頬にそっと手を添えて謝るとにっこり笑って許してくれた。

「これからは昼は家族として仲良くして、夜は恋人として仲良くするのは如何でしょうか?」

冗談っぽく言うティキを見ているとなんだか昔に戻ったみたいで嬉しくなって、首に腕を絡めてちゅっと音をたててキスをした。
「あたしこれからは頑張ってファンキーになるわ」
「いや、それはやめて」



ファンキーガール
(仲良くなるための第一歩)


2007.06.08