ぺちん、と頬を叩かれて目を覚ました。
「ティキ、おきて」
「ん、ああ、ごめん」
「もう、いっつも私がここに来るとティキ寝てるんだもん」
つまんない、と頬を膨らませて彼女が抗議する。久しぶりに見た彼女につい嬉しさがこみあげてきて、謝らなきゃいけない場面なのについ、笑ってしまった。
「ねぇ!私怒ってるんだけど」
「悪ぃ悪ぃ、つい久しぶりで嬉しくなった」
ごめんな?と言って軽くキスをする。いつもの彼女なら誤魔化さないで!ってもっと怒るのに今日はすぐに笑顔になって、いそいそと俺の膝の上にちょこんと座った。こてんと胸に体を預けるその仕草さえも愛しい。小さな体を抱きしめてやると、以前より少し痩せた気がした。
「よく、来れたな。教団にバレなかったのか?」
「もう、大丈夫」
「そうか。俺も行ってやれなくてごめんな」
「仕方ないよ。ティキだって私とのことバレたんだからタダですまされるわけないことくらいわかってるし」
会いたかった、という彼女の声は心なしかさみしそう。髪を梳いてやると猫のように甘えてきた。三日ぶりなのにまるで一ヶ月も会っていないような気持ちになった。もそもそと腕の中で動いていたかと思うと、ぽつりと小さな声が聞こえた。
「ティキ、ごめんね」
「何が?」
「指輪、なくしちゃったみたい」
確かに彼女の薬指にはいつも光っていた指輪が消えていた。申し訳なさそうに左手を隠す彼女にそんなもん気にすんなと言うと、もう一度小さな声のごめんなさいが聞こえた。
「なつしたっつーかとられたんだろ?」
「・・・」
「誰が持ってるの?」
「・・・ラビ」
「そっか」
「ごめんね」
「いいって」
本当に申し訳なさそうに謝る彼女をなだめて、俺は自分の指にはめていた指輪を外した。そしてそれを彼女の左手の薬指にはめる。彼女は驚いた顔をして俺を見上げた。
「いいの?」
「ああ。の指輪は俺が取り返してやるから、それ持ってけ」
「ありがとう」
指輪をつつみこむように、右手を添え、愛しそうにそれを握る。そんな仕草を見ていると俺も嬉しくなった。
「ティキ、大好き」
そういって珍しく、彼女からキスをもらった。細くて白い体を抱きしめて俺も彼女のキスを返す。彼女と何度か静かなキスを繰り返した後、彼女は俺の瞼にキスを落として、頭を撫でた。
「寝てないでしょ。もう寝てもいいのよ」
「でも」
「ねぇ、わかったでしょ。お願い、寝て」
「わかった」
「ティキ、幸せになってね」
「俺は今が一番幸せ」
「ばか。おやすみなさいティキ。愛してたわ」
「おやすみ、愛してるよ。これからも、ずっと」

ともう一度キスをして、俺は沈み込むように眠った。
何時間寝ていたんだろうか。目が覚めると辺りは暗くなっていた。ソファに座ったまま寝ていたせいで、体中がぎしぎし痛む。立ち上がって伸びをすると、少しほぐれた気がした。がちゃり、とドアがあいてロードが入ってきた。にやにやしながら来るところが性格が悪い。
「ティッキーの彼女ぉ、死んじゃったらしいよぉ」
「知ってる」
「なぁーんだ。つまんないのぉ。レベル3のアクマをたくさん使ったんだってぇ。でもよかったよねぇ。咎落ちになる前に死んで」
いらない情報をぽろぽろこぼすロードを無視して、椅子にかけっぱなしにしていたコートを着て、出かける準備をはじめた。
「ティッキー何処行くの?あの子もういないよぉ?」
「ちょっとエクソシストと遊んでくる」
つまんなーいのと文句をいうロードを部屋に残して俺はドアを閉めた。
さて、彼女の指輪くらいは取り返してやろうか。



最後に浮かぶのは貴方の笑顔

(彼女を愛したこと、後悔していないよ)