ジェームズだって男なんだ!














試験が終わった日って談話室がいつにも増して素敵だわ。
シリウスは寝てるし、ルーピンは読書してるし、ピーターはまたわけのわかんないことしてるし・・・
あたしの親友とその恋人は何処へやら、だけど。テスト期間でリリーが勉強の邪魔だからって言って会わなかったんだもの。まぁ何してるかは口にも出したくないわ。

、皺寄ってるよ」

本をめくる手を止めてルーピンの人差し指があたしの眉間をぐいっと押した。
あの二人のことを考えてるときの癖。でもそれは誰も知らない癖。

「大丈夫?テストの結果が心配なの?」

何だかわけのわかんないことしていたピーターがとてとてとこっちに近寄ってきて心配そうにしてくれた。
そうじゃないの。確かにテストも心配だけど貴方よりは大丈夫な自信があるわ。そんなことじゃないの。みんなが心配してくれるのはすごく嬉しいんだけど、心配事は言えないの。

なら大丈夫だよ。魔法史一生懸命やってたし」
「そうそう。魔法薬学と薬草学では唯一先生に誉められてたし!」
「闇の魔術に対する防衛術だって僕らが徹底的に教えただろ?大丈夫」

ルーピンの頭があたしの頭を優しく撫でる。考え事はそれじゃないんだけどね、うん。でも二人が一生懸命あたしを元気づけようとしてくれてるのはすごく嬉しい。

「飛行訓練は最低だったけどな」

ソファーでぐーたら寝ていたシリウスが目を瞑ったまま一言そう言った。
その瞬間、二人の空気が一瞬にして凍る。

「シリウス!ほんとのことだけど言っちゃだめだよ!確かに飛ぶっていうかあれはつぶされかけた蚊が最後の力を振り絞って飛んでいるみたいな感じだったけど本人は真剣にやってたんだし、最低だなんて言っちゃ失礼だよ!!」
「ピーター、おい、それ以上は・・・」
「試験も最低だったけど蚊から蝿にランクアップしてたし、飛んでる最中に風が吹いてのスカートめくれたからきっとポイントアップ間違いなしだしね!」

あたしに聞こえないように大声で言ってくれていたのか、はたまた嫌がらせか。
ピーターの本音はばっちりあたしの耳が全て吸収した。ピーターはあたしに背を向けて力説していたから全く気付かなかったけど、ピーターと向かい合う形で起き上がったシリウスにはあたしの顔がしっかりと見えていたみたい。みるみる青ざめていった。

「見たの?」
「もちろん!黒のレースはセクシーだったね!」
「へぇ」

あたしは後ろからピーターの頭を鷲掴みにして思い切り後ろに引っ張った。ぷぎゃあ!と変な声を出して吹っ飛んでいく。あやうく暖炉に突っ込む直前で執念でなんとか止まったみたい。惜しい。

っ、僕、今、お尻が暖炉に・・・!」
焼けてしまえばよかったのに
ッ、落ち着いて!確かにピーターの言い方は悪かったけど君は確実に上達してるから大丈夫だよ!」

杖をピーターに向けるあたしをルーピンが必死に説得する。でもあたしが怒ってるのは蚊だとか蝿だとかそんなんじゃない。

「なんで人のスカートの中勝手に見てるのよ!」
「ご、ごめんなさいっ!つい・・・」
「ついですむか!」

ピーターなんかに見られたってどうでもいいのよ。いや、よくないけど。問題はあの場にいた全員に見られたってことよ。
ピーターの角度から見えたってことはルーピンもシリウスもリリーもあの人だって見たのよ!そんなの恥ずかしいじゃない!

「リクタスセンプ・・・」

あたしが杖をしっかりとピーターの方へ向け、高らかに呪文を唱えようとした時、ドタドタっという音がして男子寮からあの人が転がり落ちてきた。その音に驚いてあたしもピーターもルーピンもシリウスも、そちらへ視線を向ける。
よほど高い場所から落ちてきたらしくて、あの人はしばらく落ちてきた格好のまま動かなかった。それからむくり、と起き上がりずれた眼鏡を直す。

「ジェームズ、何やってるんだよ馬鹿」

シリウスが呆れた声でそういうとルーピンがくすくす笑った。あたしもそれにつられて笑ってしまう。
ピーターにぱんつ見られたことなんてどうでもよくなってしまって杖を閉まった。目の端でピーターがほっと安心しているのが見えた。ジェームズに感謝するのね。
また新しい悪戯でも思いついたのかと思って全員目をキラキラさせて待ち望んでいると、彼はいつもの楽しそうな顔じゃなくて真剣な顔で口を開いた。

「リリーが・・・!!」
「リリーが?」
「・・・・猫になった」

は?猫?
あたしは真剣な顔でいうジェームズにおそるおそる尋ねる。

「ジェームズが魔法でやったんじゃなくて?」
「違うんだよ!今日はテストが終わったから僕の部屋の馬鹿共を追い出してリリーといちゃいちゃする予定だったんだ!もちろんその計画は実行されてこうしてみんなが談話室にいてくれるから僕らは人目を気にせず膝枕でしていたんだけど、リリーの甘い声と優しい手つきについ僕は寝てしまったんだ!仕方のないことだと思うんだよね、だってリリーの膝は温かくてやわらかいんだから!で、何かくすぐったいなと思って目を覚ましたらなんと・・・マイスウィートリリーに猫耳としっぽが生えてたんだよ!」

まるで明日地球に隕石が衝突してしまうんだ!とカミングアウトした学者のように悲痛な面持で一気にそれだけのことを言い切った。
あたし達はだから何だ、という目でジェームズを見るしかない。
実験の失敗かもしくは悪戯か。ホグワーツではよくあることじゃない。というかつい3日くらい前にセブルスに猫耳つける魔法かけて笑い者にしていたのは貴方でしょ。
全員の視線の冷たさに気付いたジェームズはなんでそんな顔をするんだ!?一大事じゃないか!としきりに声を荒げて熱弁している。

「なぁ、お前、馬鹿だろ」

シリウスがぽつりと呟いた。それに続いてルーピンも馬鹿だよねと笑いながらざっくり言い切る。

「馬鹿!?この僕が!?」
「いや成績の話じゃなくてさ。彼女に猫耳としっぽついてるんならお前が前言ってたあれ着せればいいじゃん」

あれ、というシリウスの言葉にジェームズの動きがぴたりと止まった。あれって何?
ルーピンもピーターもあれっていうのがわかったみたいでジェームズにしきりに薦めてる。多分部屋で話してたことなんだろうけど、あたしだけわかんないって面白くない。

「そ、そうだよね!男たるもの挑戦するべきだよね!さすがは僕の友だよ!ありがとう!」

チャオ!だなんて言いながらさっきの必死な顔は何処へやら。スキップなんかして寮に戻っていった。
嵐が去ってから三人ははぁとため息をつく。ちょっと、なんでみんなだけ話わかっててあたしだけわかんないのよ。部屋違うから仕方ないけど、仲間はずれにしないでよ。

「やっとジェームズが落ち着いてくれるね・・・」
「あぁ・・・。テスト期間の荒れっぷりは恐ろしかった」
「僕なんてインクちょっと借りただけで殺されそうになったよ・・・」

ピーターが目に涙を浮かべてぽつりと呟いた。三人で怖かったと口々に呟きながらこの数週間の恐ろしいエピソードを語っていた。
つまり、リリーに会えないのとテスト勉強へのストレスを全て三人にぶつけていたのね。さらにピーターが留年しないように勉強も教えてあげなきゃいけなかったのね。ピーター物覚え悪い上にトロくさいからさらにストレス増幅でシリウスとルーピンが必死に抑えていたのね。さすがキング・・・あたし女子寮でよかった・・・。

「で、ジェームズのあれって何?」

ジェームズの恐ろしい話を聞かされたってみんなの言うあれは気になるもの。

「や、お前、マジでひくからやめとけよ」
「そうだよ。はまだジェームズのイメージを壊したくないだろ?」
「二人の言うとおりだよ!リリーのメイドさんが見たいジェ−ムズだなんて女の子が聞いたらひくじゃん!」
「ピーター!馬鹿っ!」

あぁ、だからピーターってジェームズにいじめられるのね。
言った後しまったって顔して口を押さえてももう遅い。あたしの耳にしっかりと聞こえてしまったんだから。
シリウスに後頭部を軽くどつかれてジェームズに報告しておくからな、と地獄の一言を言われたピーターはテスト期間中の恐怖を思い出したのか涙声でシリウスに命乞いをしていた。あの子、馬鹿よね。

「まぁジェームズも男の子だからね。リリーがメイドさんの格好でご主人様って言われたらテストの疲れも愚民共へのイライラも吹っ飛んじゃうよって言ってたからさ」
「あぁ、つまり疲れとストレスをふっ飛ばさせるためにルーピンがリリーに魔法をかけたのね」
「うん、まぁそういうことかな」

しれっと言ってのけるルーピンはある意味ジェームズより怖いかもしれない。人の親友に魔法かけといてさらっとカミングアウトするなんてこの男しかできない業だもの。メイドを薦めたってことはもしかして・・・。

「ジェームズのクローゼットにはちゃんとメイド服を入れておいたよ。あ、変なやつとかじゃないから安心してね」

やっぱり・・・。この確信犯の笑顔を見てあたしはなんだかどっと疲れてしまった。ジェームズが悪戯キングかと思ってたけどルーピンもなかなかかもしれない。確実にピーターはやられる側だけど。
どさっとソファに深く座り込んでため息を吐いた。今日はリリー帰ってこないんだろうな。
ほかの二人も多分彼氏の所だろうし・・・。みんなは朝までここにいそうなら、あたしもここにいようかな。
そんなことをぼーっと考えていると足にしがみついて離れなかったピーターを蹴飛ばしてシリウスがあたしの隣に座った。

「大丈夫か?」
「何がよ」
「その、なんだ・・・」

シリウスにしては珍しくあたしのこと心配してくれてるのね。頭はいいくせに恋愛事に関してはまるっきりだめなんだから。

「ジェームズとリリーが朝までいちゃいちゃしてることがつらいかって言いたいんでしょ?」
「や、あー、うん・・・まぁ、お前よくストレートに言えるな」
「だってそういうことがあった次の日は毎回濃密なお話を聞かせていただいてるんだもの」

最初はつらかったけど、今はもう慣れたしねと付け加えるとシリウスがもっと申し訳なさそうにそっか、と一言だけ呟いた。
あたしがどれだけ好きだろうとジェームズの一番の幸せはリリーと一緒にいることだもんね。
なんて、いい人みたいに言ってなきゃやってらんない。

「メイド服、か・・・」
「お前が猫耳としっぽつけてメイド服着ておかえりなさいって言ったら俺がご主人様になってやるから安心しろ」
「ご主人様がシリウスなんて死んでもお断り」

すぱんと言ってやるとシリウスが真っ赤な顔してこっちを向いて怒ってきた。
あたしを元気づけるために頑張って言ってくれたんだなぁって思ったらなんだか嬉しくて、でも面白くておもわずぷっと吹き出す。
真っ赤になったシリウスの全然痛くないヘッドロックにギブ!ギブ!って言いながら、シリウスにおかえりなさいって言うのもいいかもなんて心のすみっこで考えていた。



上手な嘘と不器用な優しさ

(あたしが笑っていられるのは貴方がいるからかもね)



2007.05.20