団服が新しくなって、この戦争の苦しさが痛いほど全身に伝わってくるようになった。死ぬ覚悟で挑まなきゃ私のかわりに死んでいった探索部隊や仲間に合わせる顔がない。団服に袖を通しながら自分に言い聞かせて部屋を出る。ニーハイの黒ブーツがカツカツと軽快な音をたてるけど辺りは真っ暗でその音さえも暗闇に呑まれていく。最近は昼間だって光はさしているものの、毎日あちこちから死体が運ばれ、あちこちからすすり泣き。陰気だわ。悲しくないわけじゃないけど今日泣いてるあなたが明日死ぬかもしれないのよ。泣くひまがあったら死なないように鍛錬するべきだわ。こんなふうに毒づいてしまうなんてまるで神田みたい。でも神田は芯の強いにんげんだから私みたいに虚勢を張ってるわけじゃないのよね。心も体も強くならなくちゃいけない。誰がいなくなったとしても動じず自分の使命を果たせるにんげんにならなくちゃいけない。下唇を強く噛むと血の味がした。鉄っぽいいやな味がじんわりと口の中に広がるときが一番きらい。きっとこの味を体で感じるときに私は死ぬんだろうなっていやでも思ってしまうから。私が死んだらラビは
「ラビ!?」
水門の近くにはコムイのかわりにラビがいた。任務で明後日まで帰らないって言ってたのに。なんで?と口に出すより早くラビが私のほうを向いて優しく笑うからなんで?と言うのも忘れて彼の元に書けよって首に腕を巻き付けた。
久しぶり」
「早く帰ってくるならそう言ってよ!」
「列車がなくて明日の夕方出発する予定だったけど、が任務って聞いて槌で飛んできたんさ」
ヘらりと笑ってそういうけど疲れが隠しきれてないわよ馬鹿。しかも私が任務だからってわざわざ無茶しないでよ。そんなに甘やかさないでよ。
「私の任務とラビの帰宅は関係ない・・・」
「可愛くない発言するなよ。せっかく頑張ってきたんだから大好きくらい言ってほしいさ」
「どうせ私は可愛くないもん」
「嘘、は可愛いさ」
そう言ってラビはただいまのちゅーって言って一方的にキスをしてきた。恥ずかしくて自分からは絶対出来ないけどほんとはラビとたくさんキスしたいからされるがまま。
「ん・・・」
「ヤベ、今のすげえ可愛い」
「ばか」
「ほんとに可愛い」
ラビはいつもストレートに愛を伝えてくれる。口に出さないしなるべく顔にも出さないけどラビの愛情表現がけっこう嫌じゃなかったりする。でもこの愛がホンモノかどうかなんて誰にもわからないし、知りたくもない。だって彼はブックマンでラビという存在だって今教団にいる間だけのもの。この戦いが終わったら、彼は、ラビはブックマンとなって去っていくのよ。そんな彼に真の愛情なんてあるのかしら。こんなにストレートに愛情表現してくれるラビは戦争終結と同時に愛を捨て、好きの一言だって滅多に言えない私は戦争終結と同時に彼に捨てられ一人取り残されて、今の教団内のにんげんのように悲しみにうちひしがれ、洪水のように涙を流してラビラビラビラビラビってもういない人の名前を呼びながら水分不足で一人ぼっちで死ぬん
?」
「わ、あ、ごめん。ぼーっとしてた」
疲れてるのかなって誤魔化すように言ってみたけどラビの目はさっきと全く違う、全てを見透かすような目で、怖くて顔を背けた。でもラビの手が私の顎に添えられてやんわりと目を合わされる。何を言われるのかわかんなくて怯えていたらラビがバンダナをとってこつんと額を合わせてきた。
。約束、しようか」
「約束?」
「教団の敷地から出るときは絶対相手にいってきますって言うんさ。それで、帰ってきたらただいまって言う」
「・・・それが約束?」
「そうさ。後キスもつけて」
「絶対?」
「絶対」
「ん・・わかった」
「あと教団内にいるときはなるべく俺の部屋にいること」
「うん」
「ほかの男とも喋らないで、俺の見える場所に常にいること」
「うん」
「俺は絶対の傍を離れないし、をおいて死んだりしないさ」
「うん・・・」
「だからも死ぬなよ?」
「・・・っうん」
「泣くなよ」
「泣いてない・・・」
「はいはい、意地っ張りなが一番可愛いさ」
そう言ってラビは笑ってキスをしてくれた。これが最後のキスなのかなっていつも思っていたけど今回のは何故か最後だなんて思わなかった。いつも心の何処かで割り切らなきゃ冷静にならなきゃって必死に押し込めてた自分がいたことにやっと気付いたんだわ。でもそれを打ち砕いたのはきっとラビ。きっと、じゃないってわかってるけど意地っ張りな私は一生素直に認められないんだろう。
「いってくるね」
「いってらっしゃい」
ゆっくりとラビの顔が離れて、腕が、体が彼から名残惜しそうにゆっくりと離れて、舟に乗った。
探索部隊が漕ぎはじめると舟はゆっくりと水路を進んでいってラビが小さくなって、ついに見えなくなった。
私はその不確かでいつ破ってしまうかわからない約束を守る努力をしようと思う。だってラビの顔、泣きそうだったんだもの。


君のに誓うよ
(早く会わないと君が死んでしまうかと思った)



2007.11.10 title by アナーキスト