必要最低限しか取り揃えていない部屋にも朝は来る。ひねくれ者の私が珍しく目覚ましのアラームが鳴る前に起きた。これと格闘すること3年。初めて勝ったかもしれない。アラームをOFFにしようと体を起こそうとしたけれど、動かなかった。

「・・・アレン、腕退けて」

アレンの奇怪な腕が私の腰をがっしり掴んで離さない。まだ寝ている彼に何を言っても仕方ないというのはわかっているけど言わずにはいられない。あと1分でアラーム鳴っちゃうじゃない!!

「アレン!アレンってば!!」

揺すって起こしてやろうと華奢に見えて実はがっしりした肩に手を添えたとき、無情にも私の大嫌いな機械音が部屋に鳴り響いた。

「あー・・・」

その機械音を合図にアレンの肩に触れていた私の手は力をなくし、枕に顔を埋めて耳を塞いだ。アレンのせいだばかばかばか。ちゃんと起きてよ。もうあんな音聞きたくないと思っていたら音が止んだ。奴はかなりしつこいから最低5分は鳴り響くはずなのに。おかしいなと思って枕から少し顔を上げるとアラームを止めたのはアレン。私があと少しで届かなかったアラームにアレンは私の腰に腕を回し、尚且つ私に気付かれないようにさっと止めたんだ。確信犯の腹黒紳士め。

、おはようございます」
「・・・おはよう」

あからさまに不機嫌そうに言ってるっていうのにアレンは上機嫌で、私の上に覆い被さって唇を合わせた。何度も啄ばむようにして降ってくるそれは、アレンにしては珍しく必死な気がしたから内心少し嬉しくなって私からもキスを送った。何回したかわからないくらいした後、少しだけアレンの顔が離れる。離れる、と言っても実際離れたのは唇だけで、あとは隙間がないくらいに触れ合っていた。

「アレン・・・アレン・・・」

少し離れたアレンの顔がさっきと違って泣きそうで、切なくて、何か言わなきゃと思って口を開いたけど彼の名前しか出てこない。言葉にならない思いを伝えたくて、彼の頬に手を添えた。

「朝からそんな顔しないでください。昨日の続きしたくなっちゃう」
「ばか」
「冗談じゃないですけどね」

ほんとは昨日の続きは遠慮したいけど、無理に笑ってるアレンが望むなら私は何だってしてみせる。そう心の中で決意を固めていただけなのに何も言わないのを否定ととったみたいで無理強いはしませんよと言って私の胸に顔を埋めた。

「ねえアレン」
「何ですか?」
「さっき、起きてたでしょ?」
「まさか」
「嘘。わかってるんだから。起きてたのに寝たふりしてたんでしょ?」
「・・・には敵わないです」
「なんで貍寝入りしたの?理由言わなきゃごはん少なくしちゃうから」

本気だからねって付け加えると胃袋の危機を感じたらしく言います言います!!って言ってくれた。いつもこれくらい素直だといいのに。
が、昨日アラームより早く起きたら僕とのこの関係をはっきりさせるって言ったから・・・」

もごもごと、少し罰が悪そうな声を聞いて昨日のことを思い出した。ワインを飲みながら、そんなこと言ったような気がする。半分冗談で半分本気のその宣言。ふらりと現れては甘い一時を過ごしてまた消える。連絡方法なし。住所も職業も知らないアレンを一人待ち続ける自分がみっともないじゃない。何を聞いてもはぐらかすアレンが大嫌いで、でも貴方の声と笑顔だけで全て許してしまうくらい大好き。3年前から矛盾との戦いの毎日だったけど疲れてしまったの。この関係を終わらせなきゃいけないといい聞かせてる反面、大好きな人を失うのが怖い。アラームは設定したら毎日鳴ってくれるけど、アレンは設定しても毎日来てくれない。もし、朝が弱い私がアラームに勝てたら何か変わるのかなと思ってつい言ってしまった一言をアレンは真面目に受け取ってしまったのね。だからさっきもあんなに必死だったのね。

は僕のこと好きですか?」

嗚呼ばかばかばか。ばかアレン。そんな顔して聞かないで。本音が言えなくなくなるじゃない。貴方のその顔が求めてる答えしか言えなくなるじゃない。



大嫌い、でも大好き
(全部君の気持ちをわかっての行動だから)



2007.11.04
thanks 腹黒オセロ様