子供じゃないけど大人じゃない












ひとつ上の先輩の卒業式。
中学校から高校にあがるのって大きなことだと思う。小学生から中学生になるのも勿論特別だけど、高校生になれば女の子は結婚できちゃうし、アルバイトだって出来ちゃう。氷帝の高校にあがる人が多いみたいだけど、別の高校に行く人だっている。そう思うと、卒業式ってなんだか、すごく意味のある式典なのね。
そんなことを思いながら卒業式を終え、先輩達とのお別れ会を終えた私とがっくんはいつもの公園にいた。
ブランコに座って、ゆっくりと地面を蹴る。ぎい、ぎい、と揺れ始めた。
「先輩、泣いてたね」
「マネージャーの先輩だけだけどな。ほかは全員氷帝あがり組みたいだし」
みんな高校いってもテニスするんだしなー、というがっくんは楽しそうだった。
「俺らの代もさ、ぜってぇ来年優勝して、みんなで高校行ってまた優勝してさ、が嬉し泣きすんだよ、きっと。そのためにも明日からダブルス強化だかんな、しっかり見とけよ」
「じゃあ、スペシャルドリンクがんばっちゃうからね」
「おう!」
がっくんはたちこぎに変えて、思い切りブランコを揺らしはじめた。ぎい、という音が強くなる。私は相変わらず座ったまま、ゆっくりとこいでいる。二人の影を見ると、がっくんの影の方が大きくのびていた。これから、高校生になったらがっくんのこと見上げるようになるのかもしれない。テニスが強くなってもっともっと有名になって、あっという間に大人になっているのかな。
「私達も来年、卒業だね」
「そうだなー」
「大人なんてあっという間だね」
「中学だってあっという間だもんな。でも、テニス部で同窓会とか楽しそうじゃん」
「あ、楽しそう!跡部とか社会的な人間になってたりして」
「ぜってぇ変わんねぇって!」
「そうかなー。がっくんは背のびてそうだよね」
「あったりまえだろ!見下ろしてやるぜ!」
「それは無理でしょー」
「無理じゃねぇって!ぜってぇでかくなってやるんだからな!」
「ふーん、じゃあ同窓会でがっくんに会うの楽しみにしちゃお!」
私も綺麗になるから、久しぶりに会ったとき驚かないでね、って笑ってがっくんに言ったのに隣から反応がなかった。あれ、と思っていたらぎいぎいうるさいぐらい思い切りこいでいたはずの隣のブランコが、少しずつ速度を落として、やがて影は揺れなくなった。
「がっくん?」
「久しぶりに会う、とか誰が決めたの?」
「え?」
「そりゃあさ、今の俺等には結婚とか、そういうのまだ先だし、実感わかねぇけど、なんかこの先別れるみたいな言い方しなくてもいいんじゃねぇの?」
「そういう意味じゃないけど」
「だって同窓会で久しぶりに会うって、俺等どっかで別れるってことだろ」
そういう意味で言ったんじゃないよ。何度そう言ってもがっくんはわかってくれなかった。途中から弁解しているのも疲れてしまい、私も口数が減って、やがて黙ってしまった。沈みかけていたはずの橙色の太陽がすっかりと隠れてしまって、公園は薄暗く変わっていた。私達の影も消えてしまっていて、こんな風に二人が並んで歩くこともなくなってしまうのかもしれない。それでもお互い帰ろう、とは言わず、黙ってブランコに座っていた。
「今日の卒業式でさ」
「うん」
「マネージャーの先輩が泣いたのって、一人だけ高校が違うから彼氏と離れるらしいんだ」
「知ってる」
「先輩達が3年間部内恋愛してるって聞いて俺も二人のことすげえって思ってたし、あんな風になりたいって思ってた。だから、今日二人が高校が別々になるって聞いて、なんか不安になった」
「私も」
も俺も高校が一緒でも大学はなれるかもしれないし、大学が一緒でも一緒の仕事をする可能性すっげぇ低いし、絶対どっかで離れる日が来るのはわかってるんだ」
「そうだね」
「でも、離れたくない。場所とかじゃなくて、気持ちってか、なんだろ。こう、あーもう、何言ってんのかわかんねぇ!ゆーしみたいに頭良くねぇから、俺の言いたいこと伝わんねぇ。くそくそ!」
おかっぱ頭をがしがしとかいて何回もくそくそ、って言ってた。がっくんは気持ちを伝えられないって言ったけど、大丈夫。私には十分伝わったよ。がっくんが一生懸命自分の気持ちを言葉にしてるときの声とか雰囲気とか。私のことを必死に考えてくれる貴方が大好きだよ。今は子供だからおままごとみたいな恋愛だけど、これからだよね。
「さっきはごめんね」
私がそういうと、がっくんも小さな声でごめん、と謝ってくれた。きっと、今日は不安な日だったんだよ。そんな日もあるよね。だって私達まだ子供だもん。
「ね、キスしよっか」
「は!?急に何言ってんだよ!」
だって言葉に表せない気持ちを一番伝える方法でしょ、と言うとがっくんは黙ってブランコから飛び降りた。すっかり暗くなってしまったせいで、がっくんの顔がはっきりと見えない。でも、ほんの少しだけ見えるよ。緊張して、照れてる。
がっくんの両手が私の頬を包んで、ゆっくりと顔が降りてきた。それに合わせて私も目を瞑る。
唇が繋がる瞬間に、がっくんの不安な気持ちと大好きの気持ちと全部が私に伝わってきた。ね、私達はきっともうちょっと一緒に生きていけるね。



只生きる今日が最高の瞬間
(今は毎日を大切にしよう)

2008.03.20