ホグワーツを卒業してからあたしはなんとなく自堕落な生活を送っていて、今日も漏れ鍋でだらだら過ごそうかな、って時に会ってしまった。一番会いたくない奴に。

「やあ!久しぶりじゃないか!」
「ジェームズ・・・」

主席のシーカー俺様男、ジェームズ・ポッター。彼に足りないものといったらセブルスの優しい扱い方だけってくらいの完璧男。
そして、あたしが7年間の片思いしてた人。

「久しぶりの友に会えて嬉しいかい?」
「まぁ、そうね、それなりに嬉しいんじゃない」

嘘。
本当は絶対会いたくなかった。7年間、シリウスとリーマスとピーターとジェームズとそれから、リリーと仲良く楽しく過ごした学生時代。楽しくなかったわけじゃない。寧ろ楽しかった。でも・・・

「卒業してたらとだけ連絡がとれなくてリリーが寂しがっていたよ?」

やっぱり。リリーとまだ続いてるのね。
主席にぴったりの恋人リリー・エヴァンス。聡明で優しくて美人でまさに俺様ジェームズ・ポッターの自慢の恋人。そして、あたしの親友。

「ああ、そういえばそうね」
「フクロウ便だって返ってくるし、一体何をやっていたんだい?」

シリウスにだけは、引越したことを告げた。結婚式のお知らせとか来たら出席する勇気がないから引越したことは内緒にして、なんて都合のいいお願いしちゃってさ。シリウスもシリウスよ、あの馬鹿犬。わかったなんていい返事しちゃって。その場しのぎかと思ってたら本当に約束守ってるのね。犬ってほんとに忠誠心が強くて困るわ。

「ちょっと、世界を見てきた」
「素敵じゃないか!もうその旅は終えたのかい?」
「ええ、まぁね」
「じゃあイギリスにいるんだろう?」
「一応」
「住所は?」
「え?」
「住所だよ。君の。フクロウ便で連絡をとろう!また6人で集まろうじゃないか!」

これよ、これが怖くてあたしは逃げたのよ。7年間目の前でイチャつかれて笑っておいて今更逃げるだなんて卑怯だけど、ジェームズを忘れてから集まりたかったのよ。

「住所、ね」
「覚えてないのかい?」
「いいえ、覚えてるわ。何か書くものない?」
「さっき丁度羊皮紙と羽ペンを買ってきたところだよ!」

そう言ってジェームズはローブから羽ペンと羊皮紙を出してあたしに渡してくれた。黙って受け取って手のひらに置くと、羽ペンと羊皮紙は宙を舞い、あたしの住所を勝手に書いてくれた。書き終わるとそれらはジェームズのローブに戻っていく。

「これから予定はあるのかい?なかったらアポなしでシリウスの家に乗り込もうよ」
「ごめんなさい。ちょっと用事があるからそんな楽しい企画はもっと犬を徹底的に鳴かせる計画を立ててから実行しましょう?」
「それはいいね!キュンキュン言わせてやろう」

今の顔、学生に戻ったみたい。悪戯だけを考えてるわくわくしてる顔はあたしの大好きなジェームズ・ポッターそのものよ。
そんな顔を見てると学生時代に戻ったような気分に陥って胸の奥がきゅうって締め付けられた。
このままいたら涙が零れて、7年間、シリウスにしか言わなかった想いがこぼれてしまいそう。

「じゃあ、あたしはそろそろ行くわ」
「そうだね、用事があるんだったね!じゃあまたフクロウ便で連絡するよ!」
「さよなら」

そう言って立ち去ろうとして、足を止めた。
そしてあたしはもう一度くるりとジェームズの方へと向きなおす。彼はきょとんとした顔であたしを見ていた。
あたしも悪戯っぽく笑って左手の甲を彼に向け、右手の人差し指で自分の薬指をトントンと軽くたたく。

「結婚、おめでとう」

あたしの大好きなジェームズ・ポッターはあたしの大好きな笑顔でありがとう、と叫んでくれた。



左手の薬指
(住所を書いたときに気づいちゃった)

2007.04.05