早く切れ!ってえらそうに腰に手をあててる男の子、その名をドラコ・マルフォイ。
私はあの人が嫌い。というかこわい。
偉そうだし、自意識過剰だし、王様だし。まだホグワーツに入学して半年も経ってないの
に彼の存在は学校中のみんなが知ってる。ハリーポッターと同じくらい有名。
純血主義のマルフォイ家のご子息様だか何だか知らないけどすごいのはご先祖さまとかあ
の人のお父様であいつはちっとも偉くないじゃない。薬草くらい自分で切りなさいよ。腰
巾着のクラップとゴイルもマルフォイより大きいんだし力もあるんだからやり返しなさい
よ。男は黙って下剋上でしょ。

私は鍋とにらめっこしながら横目でちらちらと3人を見ていた。

あいつは二人をいじめるのに飽きたら次はポッターいじめにネビルいじめ。
グリフィンドールの人と仲が良いわけじゃないけど、あれはかわいそうだわ。授業妨害よ
!!もういっそのことドラコ・いじわる・マルフォイに改名すればいいのに。いや寧ろ私
が改名してやるわ。マルフォイがあんなことするからスリザリン生=いじわるって思われ
るのよ。
馬鹿野郎って言ってやりたいけどマルフォイ家ほどの名家じゃない私はそんなこと言えな
い。何も言わず黙ってなきゃお父様の職が危ないわ。
あまりにもちらちら見すぎていたせいでマルフォイと目があった。やっちゃったって思っ
た時にはすでに遅し。マルフォイはすごく意地悪な笑みを見せた。血の気が引くってこう
いうことなんだと思う。すかさずクラップとゴイルをつついて内緒話をしはじめた。私の
ことだってわかっているからこそ怖くて、3人から目をそらしてまた授業に集中した。
結局マルフォイがまだ悪巧みしてるんじゃないかと考えたら怖くて授業には全くといって
いいほど集中できなかった。



授業終了の合図と同士に羽ペンと洋皮紙をつかんで教室を出た。髪の毛が乱れるとかそん
なことにはかまってられない。今はドラコ・マルフォイにいじめられない場所に逃げなき
ゃ!!
ちょうどスリザリン寮とをつなぐ動く階段が寮方向から離れかけたから私は思い切って
ジャンプして飛び越えた。心臓がどきどきするけど止まってる暇なんかない。お母様が見
たらきっとウォーカー家の娘がそんなことするなんてって怒るんでしょうね。こんなこと
しちゃいけないってわかってるけど、命の危険を伴う場合だけ許してください。


談話室に入って一目散に女子寮へ。自分の部屋に一直線に向かって勢いよくドアを閉め
た。ここまで来れば大丈夫。安心したら腰が抜けてずるずるとその場にへたりこんだ。

「よかったぁー・・・。マルフォイに目つけられたら生きていけないよ」

ドアに体を預けて大きくため息。
今日はもう授業ないし夕飯まで少し寝ちゃおう。
教科書を机の上に放ってローブとネクタイを床に捨てて、ベッドにもぐりこんで目を閉じ
た。




おきてはいるけど目は開かない。
夢と現実の間でふわふわしてるとゆっくりと頬を撫でられた。ひんやりとしてて、骨ばっ
た手がお父様そっくりでなんだか安心してまた頭がぼーっとしてきた。
今何時だろ。ご飯、食べに行かなきゃ。宿題もやらなきゃ。
頭ではわかっていても体がついていかない。うー、うーと唸っていると唇に何か柔らかい
ものが触れた。それは数秒間私の唇と繋がっていたけれど、名残惜しそうにゆっくりと離
れていった。それの正体を確認しようとゆっくりと目を開けると、目の前にいたのはドラ
コ・マルフォイ。ベッドに腰掛けてびっくりするくらい近くに顔があって一瞬誰かわから
なかった。いつもは青白い頬を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせている。あのマルフォイ
が間抜け面なんて珍しいなとぼんやりと考えていた。おはようと言うとマルフォイはます
ます顔を真っ赤にしてベッドに置いてあったクッションを私の顔に無理やり押し付けた。

「こんなタイミングで起きるな!」

それだけ叫ぶとあいつは私の部屋から出ていった。窒息死するかと思うくらいぐりぐりと
押し付けられていた私はやっと解放されて思い切り空気を吸って落ち着いた。
新鮮な酸素が入ってきてようやく活動しはじめた頭がやっとさっきの状況を理解した。

「マルフォイがキスした・・・」

口に出すとそれはどんどん現実味を帯びてきて、私の頬もさっきのマルフォイみたいにな
る。さっきのキスがマルフォイなら撫でていたのもマルフォイかもしれない。きっと奴よ。
正体がわかったのに不思議と嫌じゃなくて、恥ずかしい気持ちばっかりだった。
さっきのクッションで顔を隠すとキスされたこととマルフォイの顔を思い出してますます
頭の中はマルフォイ一色。



キスに呑まれた心

(明日彼に会ったらどんな顔で挨拶しよう。)



title by BIRDMAN
2007.09.09