テスト前で暇でだらだらと散歩してたら図書館にがいた。この時期はとピーターとリーマスは絶対セットで行動して24時間体制でテスト勉強してる。なんでリーマスかというとジェームズはリリーに猛アタック中だし、俺はバカと男に勉強は教えない主義だから。は女だけどバカだしピーターは男な上にバカだ。俺ら二人が教えてやらないことは二人は今までの経験上わかっているから毎回リーマスに泣きつくんだ。あいつは人がいいから二人が泣きついてきたらきちんと教えて進級させてやってる(教え方が腹黒いからあいつらも死ぬ気で勉強するしな)。今日だって朝から地獄のテスト勉強やってると思ったのには一人。リーマスから逃げたかテストから逃げたか。別にが進級しようがしまいが関係ねぇけど、なんとなく窓の外を見る顔に元気がなかったから、話くらいは聞いてやろうって気になった。なんとなくだけど。別に悪戯するわけじゃねぇし、普通に近づいていってるのには気付きもしねぇ。ずっと外見たままだ。面白くねぇからの向かい側に立って少し、強く机を叩いてみた。
「よぉ」
ダンと少し大きめの音にの体が小さく震えた。そこではじめて俺に気付いた。ほんとに俺に気付いてなかったのかよ。仕方ねぇなと思ったけどの目が落ちそうなくらい見開いていたから面白かった。
「シリウスか・・・。hi 元気?」
「暇すぎて死にそうなくらい。お前は?」
「勉強地獄に追われて死にそう」
「言うと思った。リーマスとピーターは?一緒じゃねぇの?」
「今日はちょっと一人で勉強したい気分だから・・・」
はそれだけ言って悲しそうに笑った。といえばエヴァンスと並ぶくらいの美人なくせに俺らと同じくらい悪戯好きで毎日を楽しんでるような女。悲しいのはテストの点が返却されるときと飛行訓練のときだけだと思ってた。心配っつーか何つーか、とにかくの元気のない原因が気になっての向かい側に座った。じっと見てるのにはぼーっと外を見たまま。いつもなら俺と一緒になるとうぜぇくらいに騒ぐのに。ここまでこいつが大人しいと逆に気持ち悪りぃ。
「なぁ」
「んー?」
「テスト勉強しなくていいのか?」
「あーそうね」
適当な返事返しやがって。はまだ外を見てる。俺もずっとを見てる。今更だけどけっこうって美人なんだ。美人って言われてるのはよく聞くけど入学と同時に中身知ってるからあんまり意識してなかったな。睫毛長えし、顔整ってるし、髪も光に反射してキラキラしてるし。入学して一週間黙っててくれたら口説いたかもしんねえ。でもよく考えたら男絡みでこいつの噂って一つも聞いたことないな。のことを好きな男の話はたくさん聞くけど全員ふられてるし、が俺ら以外の男といるのも見たことがない。純血だし家って言ったらマルフォイ家とか俺ん家と並ぶくらいの家柄だから婚約者がいるとか?それなら納得がいくな。をじっと見たままいろいろ考えてたら一瞬だけ、リタの顔がぴくりと動いた。外に何かあんのかと思って俺もそっちを見ると、そこにいたのはエヴァンス、それからジェームズ。二人で何やってんのかと思えばジェームズが何か一生懸命話して、エヴァンスがゆっくりと頷いて、二人がキスをした。すぐに離れたけど、二人は見つめあったまま笑いあっていた。ついにやったかジェームズの奴。
「ジェームズもやっと実ったな。今日談話室でお祝いするか!・・・え、?」
何する?って計画二人でねろうとと思ったのにの目からぽろぽろと涙が零れていた。まさか泣いてると思わなくてびびっておたおたして何言っていいのかわかんなくなった。
「え、おい、どうしたんだよ?」
「なんでもない・・・ほんとに、なんでもないの、大丈夫・・・」
大丈夫大丈夫って小さな声で呟きながらは声も出さずに静かに泣いていた。その声は俺に向けられてるんじゃなくて自分に言いきかせてたんだ。その時になって俺はやっとがジェームズのことが好きだったことに気付いた。
・・・」
「ごめん、ほんとに大丈夫だから、一人にして」
なんて女だよ。ジェームズが好きなエヴァンスと毎日一緒にいて、ジェームズの猛アタックを毎日見て、妄想ノロケ話を一緒にからかって、誰にもバレずに恋をしていたんだ。絶対に叶わない、世界で一番つらい恋を自ら選んで尚現実を見に来たのか。エヴァンスから今日のことを聞かされていたから一人でここに来たんだろ?

「お願い、一人にして・・・」
「やだ」
俺は黙って席を立っての方へと移動した。黙って泣き続けるの腕をとって図書館を出て空き教室に入った。なんでそんなことしたのかわかんねぇけど、を一人にしたくなかったんだ。
「シリウス・・・」
「図書館で泣くなよ」
「ごめん・・・」
「つーか一人で泣くなよ」
「ごめん、なさい」
それだけ言ってまたは泣いた。の長い睫毛に涙が乗って真珠みたいで綺麗だななんて柄にもなく考えてた。
「私、入学してからずっとジェームズが好きなの。リリーとジェームズが会う前からずっとよ・・・。でも彼は私じゃなくリリーを選んだ。リリーも最初は毎日ジェームズの悪口ばかりだったのに、いつの間にかなくなって、嬉しそうな顔でジェームズの話をしはじめた・・・」
泣きながら、それでも懍とした声で話すリタが綺麗で女らしかった。でも華奢な身体がいまにも崩れてしまいそうなのが心配で俺は相槌を打ちながらゆっくりの体を抱きしめた。もそのまま俺の腕の中にすっぽり収まってローブに真珠の涙をべったりとつけてくれやがったけど不思議と嫌じゃなかった。泣く女を綺麗だと思ったのは生まれて初めてだ。
「リリーから会うって聞いて、多分付き合うって聞いて、今度こそ自分の気持ちを整理したくて・・・」
「でもダメだった。キスする二人を見て、悲しいのに、ジェームズのこともリリーのことも、大好きなの。二人が大好きなの・・・」
「もういいって」
「二人の幸せを望むのに、二人が付き合うのは嫌なんて、私ってすごく嫌な魔女。最悪よ」
「最悪なんかじゃねぇよ」
「最悪よ・・・ごめん、しばらくこうさせて」
はもうそれ以上何も言わず黙って俺の腕の中で泣いた。



世界一悲しい恋をする君へ
(俺が君を笑顔にしてやれたらいいのにな)



2007.11.18
title by アナーキスト