何かが頬に触れる感触がして、目が覚めた。時間を確かめたくて目を開けると目の前に浅黒い手が見える。

「あ、起きた」

目の前に見えた手はティキのもので彼はいつの間にか私の部屋に忍び込んでベッドに座って寝顔を見ていたというのがあたしの推測。99%の確率で当たっているだろうから確認したくもない。
今ティキと話したくない。顔見たくない。声聴きたくない。
ばふっと布団をかぶった。いつものティキだったらべりっと布団をはがすかもしくは、ベッドの中に入ってくるはずなんだけどそれをする様子がないあたり少しは罪悪感持ってるのかしら。

「怒ってる?」

ふいに、少しさみしそうな声が聞こえてきた。その声に涙が出そうになったけど素直じゃないあたしはつっぱねてしまう。きっと可愛い女の子だったら甘えてティキと仲直りしてたのかもしれないけど生憎とそんな可愛らしい女じゃないから。

「別に」
「明らかに不機嫌そうな顔してんじゃん」

次は少し強めな声。つっぱねられたから向こうもムキになったみたい。あっちがそういう態度になるとあたし達の喧嘩は最悪なものになる。

「昨日ティキから食事に誘ったくせに結局来なくて閉店まで待たされたことなんか怒ってませんよ」

だって久しぶりにティキに会えて久しぶりの食事だったんだもん。ふんぱつして買ったドレス着ていつもよりキレイに化粧もして、1人で入るのを躊躇うようなレストランを予約したバカティキに毒づきながら1人で綺麗な夜景を見ていたのよ。何にも頼まず、ずーっと待ってたのよ。

「うっわ、お前そんなに待ったのか?」
「待っちゃ悪い!?」

思わず出た(と思われる)ティキの本音にカチンときた。恋人に会えるのを喜ぶ乙女心が多少あたしに残ってることを否定されたみたいでムカついたから。きっとからかわれるのよ。そうよ、俺の仕事わかってるんだからちょっとは考えろよとか言うのよ、この男は。

「いや、嬉しい」

返ってきた言葉があんまりにも意外で不覚にも照れてしまった。それと同時に愛されてる感が体中に満たされてティキを愛してる自分を感じてしまって嬉しくて、悔しかった。

「嬉しいって何よ。あたしはティキが来たって嬉しくもなんともない。帰って」
「・・・わかった、帰るよ」

何故か出てしまった言葉に言った後失敗したことに気づく。一度言ってしまったものはやっぱナシ!なんてできるわけもなく、ティキのため息が聞こえた。ため息をついたときはもう終わりでそれから一週間か一ヶ月か向こうから連絡が来るまで声も聴けない。どうしたらいいのかわからなくなってパニックを起こしていたら、ギシっと軋んでベッドが軽くなった。あぁ、やばいやばい。絶対ティキ怒っちゃった。




ーてーはなしてくれないと俺帰れないよー?」

いつの間にかあたしの手だけがにゅっと布団から出て、ティキの腕をしっかりと握り締めていた。普段だったら絶対こんなことをしないあたしが。もうヤケになったあたしは力いっぱいティキの腕を引き寄せる。意外にもあっさりとティキが私の防護領地(いわゆるベッドの中)に入りこんできたのはきっとティキはこうなることまで全てお見通しだったから。

「まだ怒ってる?」
「・・・」

ほんとにこの男のこと殺してやりたいくらい憎くて、壊してやりたいくらい好きなあたしはやっぱり泣いてしまうわけで。この男はベッドの中で器用に体の向きを変えてあたしを抱きしめた。それだけで今日一日の寂しい悔しい夜は吹っ飛んでいってしまった。どすんと胸に頭を突っ込んでみたらぐふってティキのうめき声が聞こえる(ざまーみろ)。両手でどんなことがあっても逃げられないようにティキのシャツを掴んでやったら、そのお返しに優しく頭を撫でられた。ああもう反則だ。イエローカードだ。どんな悪態をついても今は笑って流されるだけだろうけど何か言ってやりたい。そう思って顔をあげたら今まで見た中で一番優しいティキの笑顔。

「ごめんな?」

そう言って優しく額にキスをされた。だからそのお返しに初めてあたしから、キスをした。自分からしたことなんてないからどうしていいのかわからなくていつもティキがしてくれるようにしたら、ゆっくりと体を組み敷かれて結局ティキにリードされる破目になる。悔しいけどいろんな意味でティキよりお子様なあたしは触れるだけのキスでそのままゆっくりと離れた。
「初めてしてくれた」

真っ暗で顔はわからないけど嬉しそうな愛しそうな声が降ってきてあたしはまたティキにキスしたくなった。約束をするくせにすぐ嘘ついてそれでも始終自分のペースで許しを乞うこのどうしようもない男はあたしを愛していているんだって自惚れじゃなくて、そう実感した。

「キスしたい?それともそれ以上のことがしたい?」

もう答えはわかりきってるのに聞くティキなんて嫌い。答えの代わりに噛み付くようにキスをして、彼にいっぱいの愛をもらった。






嘘吐きな男

(どれだけ嘘をついてもあたしを愛していることが真実ならそれでいい)



グリコ様へ相互のお礼に捧げます!!
甘夢、になっていない感がダダ漏れですいませんッ(スライディング土下座)
これからもよろしくお願いします。

グリコ様の素敵サイトmoa
2007.01.12