日がどっぷり沈んであたりは真っ暗。田舎だから街灯もほとんどなし。
そんな中一人とぼとぼと家路に向かうなんて最悪。

朝の正座占いは12位だった。
別にあんなもの信じるつもりもないし。だって単純計算しても日本人で同じ正座の人って1千万人くらいいるんだもの。
そんな人たちが一日の間に同じ出来事が起きるわけない。そう思って聞き流しながら朝ごはん食べてたんだけど、とがったものに注意っていう言葉だけは聴いていた。とがったものって何だろうって思いながら一日を過ごしたけど、放課後になってようやくその意味がわかった。
私の自転車が故意的にパンクさせられてました。
タイヤを見ると先端の尖ったものが刺さった痕が前輪にも後輪にもついてる。
一応事務の人に届出は出したけど出したところで今すぐ自転車に乗れるわけもなく、共働きの両親が迎えにきてくれるはずもなく。

「(田舎って不便・・・)」

はぁって今日何回目かのため息をつきながら重たい鞄を持って歩いていた。
星座占いを信じるつもりはないんだけどね、とがったものに注意って言われても注意のしようがないじゃない!?だってパンクされたのって明らかに授業中でしょ。24時間自転車見張ってろって言うの?!

「はぁ・・・」

考えてもどうしようもないことをひたすら考えながら歩くと余計に足が重く感じる。
もうやだな。
歩くの疲れちゃった。多分30分くらいは歩いてるよ。
足が鉛みたいに重くなって私はその場にしゃがみこんだ。遠くで自転車のしゃーって音が聞こえる。いいなぁ。私も自転車バカにしてたけどやっぱり自転車は大事だよ。
しゃーって音がこっちに向かってくるなーって思ってたらキキィーッてブレーキ音が私の後ろで止まった。通行の邪魔にならないように隅っこでしゃがんでいたはずなのに。絶対酔って吐きそうな高校生と勘違いされちゃって心配して止まったんだよ。くそ、顔くらい見てやる。

「なーにやってるんさぁ?」

勢いよく顔を上げたのにそこにいたのは見知らぬ通行人さんじゃなくてよく知ってるお隣さん。

「ラビ?」
「顔見たんだからわかるだろ?は相変わらずバカさぁ」
「馬鹿じゃないもん!」
「馬鹿さ。女の子がこんな時間に一人でしゃがみこんでたら誘拐されるかもしれないとか考えなかったんさぁ?」
「う・・・」

確かにこんなところにいたら後ろからひょいっと誘拐されちゃうかもしれないけど・・・。傷心の私にラビの言葉がぐさぐさと矢のように刺さってくる。

「こんなところに女の子が座り込むのも非常識だし、暗い所を一人で歩くなんてもっと非常識さぁ。友達と一緒に帰るとかせめて自転車で帰るとか、は自分の身を守る行動出来ないんさ?」
「・・・自転車パンクした」
「パンク?」

珍しく怖い顔でズバズバ言ってくるラビにビビってしまった私はごにょごにょと今日起きたことを説明した。
でもパンクとしゃがみこんでたことは全く関係なくて、やっぱりラビはそこをつっこんできた、

「パンクしたのとこんなところに一人でしゃがみこんでた無用心な行動と関係ないさね。なんで?」

まさか星座占いが当りすぎてて悔しくて拗ねてました、だなんて言えるはずもなくて、それは・・・アレだよ・・・ってもごもごと誤魔化した。ラビは自分から聞いてきたくせに大して興味がなかったらしくふーんとだけ言うと、自転車を降りた。
興味ないならそんな怖い顔でぐさぐさ聞いてこないでよ。

「ラビは?」
「ん?」
「ラビはなんでこんな遅い時間にこんな所にいるの?」
「部活が珍しく早く終わったんさ」

いつもは8時前過ぎにしか帰れないんだけどねって呟きながら自分の自転車の後ろをぽんぽんと手で軽く叩いた。

「乗って」
「え?」
「家まで歩くなんて疲れるし、家隣だし、送ってくよ」

さっきの謎の怒りは何処かへ消えていってくれたみたいで、にこにこ笑いながら後ろを指差して早く、と催促された。
嫌な予感がする・・・。

「それはよくある例の二人乗りってやつでしょうか?」
「もちろんよくある例の二人乗りってやつさぁ」

私にはラビが急に機嫌が良くなったことも怖いけど、それより私にとって怖いものが今まさに目の前に迫っている。
どうしよう・・・。
なかなか乗らない私にラビが心配そうに声をかけてきた。

「どうしたんさぁ?」

気分でも悪い?って自転車から一度降りてひょいと顔を覗き込ませてくる。

「え、と・・・」

言わなきゃ、と思うものの少し言い出しにくくて言葉が出てこない。
なんて言ったらいいのかわからなくてもじもじしていたらラビの手が私の頭の上にぽんと乗った。そのままわしゃわしゃっと撫でられる。
小さい頃から言いたいことが言えなくなったとき、ラビはいっつも私の頭を撫でてくれてた。
そうするとなんとなく、言葉が出てきてなんでも素直に言えちゃうんだ。

「・・・二人乗りが、出来ないん・・です」
「は?」

思い切ってカミングアウトしたのにラビは呆れたような顔でこっちを見てきた。馬鹿にしたいなら何とでも言えよ、チクショウ。私だって別に乗りたくないわけじゃないんだから。
どんと来い、と口をぎゅっとつむってからかいの言葉に戦闘態勢をとっていると予想外にラビはその場にしゃがみこんだ。

「え?」
「なんだよ、それだけかよ」

あせったーって言いながら安心したように笑うラビ。あせったのは私の方ですけど。
それだけって私にとってはテストで0点取りました、より言いにくいことなんですけど。
立ち上がって私の顔を見て、ぷっと吹き出した。

「なにむくれてるんさ」

ラビにしてみたらそれだけでも私にとっては重大なんだからね!って言ったけどはいはいって軽く流されてふくれたほっぺたを人差し指でむにむにされた。
ちくしょう、18歳の華の乙女を完全に子供扱いだ。

「じゃあ、帰るか」

そう言ってラビはまた自転車にまたがる。
さっき乗れないってカミングアウトしたのにまだ乗せる気か。それとも私を置いて一人で帰る気か。

「はーやくしないと夕飯食べ損ねるさ」
「食べたいなら一人で帰ればいいじゃない。私乗れないんだもん」

ふいってそっぽ向いてすたすた歩き出した。それに合わせてラビも自転車をこぎはじめる。
追いつかれないように一生懸命早歩きしてみるけど結局自転車には敵わず、目の前を塞がれた。

「いいから早く」
「だから乗れないんだって」
「大丈夫さ」
「なんでそんなに言い切れるのよ」
「だってこれ、特別な自転車だもん」

そう言ってにっと笑ったラビの顔は自信満々。こういう顔のときの彼は絶対的な確信を持ってるし、それを信じて期待を裏切られたことは未だないからそれを信じてみることにした。
鞄をリュックみたいに背負って、後輪の出っ張りの部分に片足をかけてみる。

「俺の肩に手置いて。そんでもう勢いに乗せて乗っちゃって」

言われた通りにしてみるとバランスを崩すことなく、私は自転車の後ろに乗れた。

「乗れた・・・」
「だから言ったさ。俺の背中に体重かけとかないと転ぶさ」

嬉しそうに笑って言って自転車は進み始めた。ラビのおっきい背中に体重を預けて乗ると心臓がうるさいくらいにばくばく鳴った。
初めて二人乗りしてるからどきどきしてるんじゃなくてラビの後ろで、肩に手なんか置いて、そんでそんで背中に体重かけちゃってるからなんだ。いっつもへらへら笑って女の子達といるから気づかなかったけど意外と肩幅も広いし、背中もがっしりしてるんだ。
改めてよく観察したらすごくかっこよくて、モテちゃうのも仕方ないんだなって思って。
幼馴染っていう枠があるから人気者のラビと一般人の私がこんな風に自転車に乗っちゃえるんだよね。

どきどきしすぎ」

ぼーっと考えてたら急に言われて、「え、あ、」って上手く言えない私の声にラビがくっくっと笑った。

「だって落ちそうだもん。ラビはどきどきしないの?」
「どきどきしてるさぁ。でもみたいにお子様じゃないから」
「もー!!私はラビと違ってこういうの慣れてないんだから」
「俺も慣れてないさ」
「嘘つき」

どーせ女の子いっぱい乗せてるんでしょーって笑いながら言ってやった。
嘘、笑えるわけないでしょ。乗せないでよ。って言いたいけど、私にそんなこと言う資格ないしなぁ。

「乗せたことなんてないさ」

バレたかーって冗談で返ってくると思ってたのにラビからの返事は普通で真面目な声だった。
ドキ、とまた心臓がおおきな声を出す。
やばいぞ、やばいぞ。期待しちゃうじゃん。

「え?」
「だってこの自転車はと二人乗りする専用の特別車さ」




二人乗り専用の自転車
(ねぇそれって、期待してもいい?)

2007.04.29